みなさん、こんにちは。64歳のプログラマーです。
前回、教授陣からの「お祈りメール」を冷静にログ解析した結果、仕事を続けながら平日の昼間に試験管を振る(実験を行う)ことの物理的な難しさという「本当の壁」が見えてきました。
プログラミングの世界では、どれだけ熱意を込めて書いたコードでも、根本的な仕様やアーキテクチャに無理があれば、容赦なく「設計変更(リファクタリング)」を迫られます。
「だったら、戦い方を変えればいいじゃないか」
落ち込んでいたのも束の間、私のプログラマー脳がパッと切り替わりました。
今回は、私が下した大きな決断――「ウェット(実験系)」から「ドライ(情報解析系)」へのターゲットシフトについてお話しします。
1. バイオの世界にある「ウェット」と「ドライ」
みなさんは、ライフサイエンスの研究室に「ウェット(Wet)」と「ドライ(Dry)」という2つの対極的なアプローチがあるのをご存じでしょうか。
- ウェット(Wet)の研究室:白衣を着て、細胞を培養し、試薬を混ぜて実験を行う、いわゆる「濡れる」現場。私が最初に目指し、時間の壁にぶつかった場所です。
- ドライ(Dry)の研究室:実験によって得られた膨大なデータ(ゲノムの配列データなど)を、コンピュータとプログラミング(PythonやR、Linux環境など)を駆使して解析する、いわゆる「乾いた」現場。バイオインフォマティクス(生物情報科学)と呼ばれる分野です。
この「ドライ」の世界を知った瞬間、目から鱗が落ちました。
「これこそ、私が長年培ってきたITスキルを、100%ダイレクトにインプットできる場所ではないか!」と。
2. ドライ系シフトで、3つのエラーが「正常終了(SUCCESS)」へ
ターゲットをデータ解析専門の「ドライ系研究室」に変えた瞬間、前回立ちはだかった3つの高い壁が、信じられないほどクリアになっていきました。
- 平日の時間の壁 ➡️ リモートと非同期でクリア!
- 実験室に張り付く必要がありません。データ解析であれば、夜間でも週末でも、自宅のパソコンから大学のサーバーにSSHでログインしてコードを回すことができます。派遣の仕事との両立という最大のバグが、これで解消されます。
- キャパシティ(指導リソース)の壁 ➡️ コードレビューでクリア!
- 「バイオの実験手順」をゼロから教えてもらうのは人手がいりますが、「Pythonのコードの書き方やバグ取り」なら、私はすでに自立しています。むしろ研究室の若い学生にプログラミングを教えることすらできるかもしれない。「お荷物」ではなく、最初から「即戦力」としてギブ&テイクが成立します。
- 実験費用のコストの壁 ➡️ クラウドとPCリソースでクリア!
- 高価な試薬や使い捨ての実験器具は不要です。必要なのはコンピュータの計算資源(CPU/GPU)だけ。研究室の予算を圧迫するリスクを、最小限に抑えることができます。
3. 64歳の「枯れた技術」が、最先端バイオの武器になる
現在の医学・がん研究は、次世代シーケンサー(NGS)の登場によって、毎日テラバイト級の膨大なデジタルデータが吐き出される「ビッグデータの時代」を迎えています。
生物学者たちが今最も求めているのは、実は「データを上手に扱えるエンジニアの力」なのです。
私が30年以上やってきた、Linux環境でのシェルスクリプト、大量のテキストデータの正規表現によるパース、データベース(SQL)の最適化……。IT業界では「枯れた技術」と呼ばれるこれらが、バイオの世界では、がんの変異を見つけ出すための強力な武器になります。
「C言語とPythonが使える64歳の派遣プログラマー」という私の経歴は、ウェットの世界では『未経験の高齢者』でしたが、ドライの世界に持っていけば『バイオのドメイン知識を学びたがっている、経験豊富なシニアエンジニア』という、全く異なる価値(バリュー)に化ける可能性が見えてきたのです。
まとめ:仕様変更は、プロジェクト成功への近道
プロジェクトが頓挫しかけたとき、意地になって同じ方法を繰り返すのは三流のプログラマーです。
エラーログを元に、より成功確率の高い「ドライ系研究室」へ迅速にピボットする。これこそが、大人の、そしてエンジニアの戦い方だと確信しています。
「がん研究のコードを、この手でデバッグする」というゴールは何も変わっていません。ルート(設計)を少し最適化しただけです。
次回は、この新方針の元、「ドライ系(バイオインフォマティクス)の教授へ向けた、技術特化型メールの大改造」をお届けします。
コンパイルが通るまで、リトライは終わりません!

